第3章 / 第3節 後期作品『おやすみプンプン』

浅野いにお後期作品として、現在も連載を続けているのが『おやすみプンプン』。現在までで7冊の単行本を発売しており、今までの作品の中で最も長い。始めは小学生であったプンプンも、現在は高校卒業を控えるまでに成長した。しかし、ここからのプンプンこそが、本当に描きたかった時間だと浅野いにおは言う。

『ソラニン』は大学終わりたての、だるいけどわりと居心地のいいモラトリアム期間ですけど、それよりももっとキラキラしてる時って、18歳の時だったと思ったんですよ。高校が終わった直後が一番、自分の経験からみて自由だった。まだ失うものも何もなくて、得てるものも何もなくて。可能性しかないそのタイミングで、プンプンがどういう選択をしていくか。楽しみな反面、ホントにちゃんと描けるかなっていう不安もあるけど、今まではここの時間を描くための“前フリ”なんで。ようやく本編が始まるぞって感じですね(※41)

小学生から高校生まで、プンプンはまったく主体性を持たず、何も決断しないまま、流されるように生きてきた。その中で、二人の女の子を傷つけ、両親は離婚し、叔父と母親と生活をするが、母親は他界。叔父は結婚をし、プンプンは叔父の妻に童貞を奪われる。そんな、数々の苦難を受けてきたプンプンは、ついに最新刊7巻で、自分の意思によって決断をする。「僕は一人で暮らします」。高校3年での決断は、プンプンにとって始めての主体的行動であると言える。この決断の後の人生こそが浅野いにおが本当に描きたかったものであり、本当のメッセージが込められている物語だと考えられる。そんな、プンプンの門出を祝った叔父の言葉こそが、浅野いにおがまさに今伝えたいメッセージだと言う。

雄一おじさんがプンプンに『人生のほとんどの出来事は自業自得』って言ってるんですね。実は、あそこがここ数年で一番、僕が言いたかったことで。他人にどうこうしてもらうんじゃなくて、結局自分でどうにかするしかない。今までマンガの中でさんざんいいことを言っておいて、かなり無責任な言い方に聞こえちゃうかもしれないけど、今ホントそう思うんです(※42)

叔父は、プンプンと同じように多くの苦難を味わい、人を傷つけ、罪悪感だけを糧に生きてきた。その叔父が発する言葉こそが、浅野いにおが後期作品において一番伝えたかったことであり、今後の物語においてプンプンに大きな影響を与えるメッセージである。また、今までの人生を流されるように生きてきた読者や、プンプンに感情移入をしていた読者にとっては、プンプン同様に大きな衝撃を受けるメッセージとなり得る。ここに全文を引用する。

人生に於いてほとんどの出来事は自業自得なんだ。
自分で選び歩んできた道じゃないか。
そうだろう?

プンプン・・・・・・人として生きてくうえで大切なものってなんだと思う?
・・・お金、夢、他人への思いやり・・・・・・
・・・なるほどどれも大切かもしれない・・・・・・
・・・けど一番大事なのは「覚悟」なのさ。

プンプンが一人で暮らすって言った時、・・・正直、おじさん痺れたよ。
正直おちんちんが捩れあがった。
プンプンが決めたことなら僕は何も言わないさ。
・・・たとえ、君がひき込もろうが殺人犯になろうが知ったこっちゃない。
ただもし――
ただもし君がそれを他人や環境のせいにしたら――・・・
僕ァ、貴様を日本刀でたたっ切る!!

・・・いいか!?よく聞け、この豚やろう!!
人生なんてびっくりするほどフリーダムなのさ!!
けど自由には責任があるってことを忘れちゃいけないのさ、ボーイ。
僕が翠さんに初めて中出しした時――
僕の中の僕がほとんど死んだ。
翠さんと結婚を決意した時――・・・
僕達は人生で起きたことをすべて洗いざらい話したんだ。
・・・だから僕は、君と翠さんの間に何があったのかをよく知っている。
・・・けど怒りは湧かなかった。
むしろ君を愛していると言ってもいい!!

・・・プンプン。
僕は思うよ・・・
人生っておもしろ過ぎるだろって。
生きていて無駄な時なんて一瞬もなかった。
僕みたいな人間の屑でもそう思える瞬間が来るんだ。
そうやって僕は今日も、この平坦な毎日を生きている。

君の死に場所はどこだ?
その時君の命は燃えているか?
プンプン・・・・・・考えるんだ。
そして悩め!!
そうやって自分の意思で選択するんだ。

たとえ何もわからなかったとしても、わかろうと前に進んでいる限り、かろうじて自分は自分でいられるんだ。
この退屈な日常も、くだらない景色も、作りかえられるのは、自分だけなんだ!!

だからプンプン・・・・・・
君が君でいる限り・・・・・・
この世界は、君のものだ。

「自業自得」、「覚悟」。人生とは、自分のものであり、自分の責任の元で生きるべきものである。それこそが『素晴らしい世界』『ソラニン』と一歩進むこと、そして進み続けていくことを伝えてきた浅野いにおの今のメッセージである。前期、中期、後期とメッセージを分析してきたが、全てのメッセージには共通する考え方がある。それこそが、常に今を真剣に生きる浅野いにおだからこそ描き得るメッセージであり、私たち読者が一歩を踏み出そうと思うことができる、「自分の力で人生を生きる」ということである。つまり、社会や他人から何かを与えてくれることを期待するのではなく、自分の意見を持ち、自分で考え、前を向いて生きていくということ、自分の人生を後悔なく生きるということである。そして、それを自ら実践し伝えているのが、浅野いにおなのである。

脚注

※41 吉田大助(2010)「永遠の浅野いにお」『ダ・ヴィンチ』No.193:p27-28
※42 吉田大助(2010)「永遠の浅野いにお」『ダ・ヴィンチ』No.193:p28

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