要旨

現代を代表する漫画家、浅野いにお。

浅野いにおは、緻密かつ美しい作画と、ヒリヒリするようなリアリティ溢れる心理描写で、現代社会を生きる若者や子どものささやかな希望や絶望を鮮烈に描く。次世代を担う漫画家の一人として注目を集めている。そんな浅野いにおの人気の秘密は、現代の若者の共感を得ているところにある。現代の若者の感情移入を誘い共感を得る、浅野いにお漫画の仕組みと、浅野いにおが伝え続ける根底的なメッセージを分析していくことを本論文の目的とする。

そのために、第1章では、「感情移入」を再定義し、物語世界への感情移入発生のプロセスを具体的に考察していく。物語世界への感情移入において必要な要素は、「人物像の明確性」「時間の連続性」「世界の日常性」の3点に集約されることが分かった。この3つの要素を活用し、第2章では浅野いにお漫画における感情移入の仕組みについて分析していく。この章では、物語世界からのアプローチだけでなく、漫画という表現媒体自体からもアプローチすることで、より多角的に分析していく。浅野いにおの根底的メッセージを読み解くために、第3章では、浅野いにお漫画を年代別に分け、メッセージを読み解いていく。その先に、共通する根底的なメッセージを掴み取ることを目的とする。

卓越した描写力と、今という時代を敏感に感じ取るアンテナを持った浅野いにおの漫画は、今の時代を生きる読者にとって、どこまでも日常的で共感を生み出すものであった。そして、子どもの頃から自らの死を常に考え続け、その時その時を全力で後悔の無いように生きてきた浅野いにおだからこそ、「自分の力で人生を生きる」という根底的なメッセージを私たちに伝え続けているのだろう。

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