第1章 感情移入とは / 第1節 感情移入の定義

まず始めに、感情移入について考えていく。感情移入とは、日常生活の中に強く溶け込んでいるものであり、改めて定義を定めなくとも、感覚的に理解している人は多いはずである。たとえば、音楽を聴いて涙することや、ドラマを見て登場人物と一緒に喜んだり、悔しがったりすることも、すべては感情移入である。また、友達や恋人と喧嘩し、ぶつかりあってしまうのは、相手の感情を汲み取ってあげることが出来ていないからであるとも言える。そんな、全ての人が日常的に行っている感情移入の定義を改めて調べてみる。

①他人の言葉や表情をもとに、その感情や態度を追体験すること。共感。
②リップスの美学などで、自然や芸術作品などの対象に自分の感情を投射し一体化すること(※3)

美学においては、小説・絵画などに自分の感情を移し入れ、主人公などと一体化すること。心理学、社会学、現象学などでは、自分の内面を移し入れることによって他我を経験すること(※4)

とある。ここから、本論文で解き明かしていくべき感情移入の定義を考えていく。それはすなわち、「小説・漫画における、登場人物の言葉や表情をもとに、その登場人物へと自分の感情を移し入れ、一体化すること」である。感情移入の定義はここで確認出来たが、では果たしてどのようにしたら人は感情移入をするのかということは分かっていない。大事なのは定義ではなく、実際に発生するまでのプロセスである。そのため、ここからは物語を読む鑑賞者が感情移入を起こすプロセスについて考えていく。

脚注

※3 松村明編(2006)『大辞林 第三版』三省堂
※4 日本認知科学会編(2002)『認知科学辞典』共立出版

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