第2章 / 第2節 / 第3項 他者による存在の肯定

ここまで、「抽象化された主人公」であるプンプンと、「超現実的な世界」である物語世界について考察してきた。プンプンはプンプン単体としての存在では、物語世界から激しく浮いている。それゆえ、読者は感情を移入し得ない。しかし、これら2つが交じり合うことによって、プンプンは超現実的世界への存在を肯定されていく。

それは、単行本1巻の帯に記載された「落書きではありません。プンプンはどこにでもいる、ごくごくフツーの男の子なんです」という文言、クラスの女の子がプンプンに対し「ジャニーズ系の顔だよね」と発する場面から垣間見える。つまり、読者にとって、プンプンは記号的/漫画的な登場人物であり、物語世界から浮いた存在に捉えられているが、作者である浅野いにおと、物語世界の登場人物たちにとっては、ごく普通の男の子であるということを示唆している。また、物語上では常に語り手が介在する「声」の存在も、プンプンと叔父のやり取り(第1項 資料4 図2参照)が成立していることから、肯定することが出来る。つまり、ビジュアルと同様、読者にとっては、プンプンの声は失われており、語り手を介してしか存在が確認出来ないが、物語世界の登場人物には他の人物たちと同じようにプンプンの声は聞こえているということが考えられる。そして、プンプンの「身体」の存在を肯定するようなシーンも時折織り交ぜられる(下記資料4 図4参照)。1枚目は、好きな女の子にキスをされるシーン。ここでは、プンプンが、顔を両手で持たれ、鳥のクチバシのような部分にキスをされている描写が描かれている。これにより、プンプンの落書きのような造形は、物語世界の中でも、物理的に触れられるものだということを示している。2枚目では、女の子の顔に触れるプンプンの両手がリアルな造形として、そして最後のコマではプンプンの目がリアルなものとして描かれており、3枚目左ページでは、プンプンの着ているシャツや、ズボン、ベルト、おなかが描かれている。これはつまり、プンプンにはビジュアルだけでなく、実体としての身体も存在することを証明している。

▼ 資料4 図4. 他者により身体感覚が描かれるプンプン





つまり、プンプンという抽象化された主人公は、超現実的な世界に存在する語り手や、他の登場人物によってのみ、存在が語られ、肯定されていく。それによって、読者は物語世界に存在するプンプンの「ビジュアル」を、「声」を、物語世界へと登場させるために、具現化しようと思考する。それは、プンプンの存在を想像する余地を手に入れたことを意味する。そうして、プンプンは読者それぞれのビジュアルとなり、声となり、主人公となる。読者が思い描いた「ビジュアル」の主人公が登場する物語。それは、読者が思い入れを持って強く感情移入の出来る主人公の誕生であり、浅野いにおの実験的試みの成功を告げている。

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